2025年4月に遂に中国公演を行ったことで話題の平沢進。
X(旧Twitter)ではおちゃめな姿を見せることもある彼ですが、そのサウンドはダークでミステリアス、それでいて哲学的――
実は日本の音楽シーンの中で、長年静かに巨大な存在感を放っているアーティストで、米津玄師さんも影響を受けたと語っています。
活動歴が長いことから、発表されたアルバムの数も多く、「何から聞いたら良いか分からない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は最近平沢進を知った方や他の曲が知りたいという方のために、おすすめの楽曲・アルバムをご紹介します!
平沢進(ひらさわ すすむ)とは?
1954年 東京生まれの音楽家・作曲家・プロデューサー。
1979年 テクノバンド「P-MODEL」でデビュー。
1989年 アルバム「時空の水」でソロデビュー
その後もソロ活動やサウンドトラック制作を中心に、独自の世界観と革新性で知られる“孤高の音楽家”。
業界ではいち早くデジタル音源の配信を行ったり、ライブでは奇妙な自作楽器で演奏したりなど、そのスタイルや風貌から生まれるカリスマ性からファンからは「師匠」と呼ばれています。
熱狂的なファンは「馬の骨」と呼ばれ、SNSでのユーモラスな発言やライブ中の“ツンデレMC”など、意外なファンサービスも人気の理由のひとつです。
経歴・作風
平沢進の音楽活動は、大きく3つの名義で展開されています。
- P-MODEL(1979〜)
- ソロ活動(1989〜)
- 核P-MODEL(2004〜)
それぞれに音楽性やテーマの違いがあり、現在も精力的に楽曲やライブを発表し続けています。
名義 | 特徴・テーマ | 主なキーワード |
P-MODEL | テクノポップを軸に変化し続けるバンド形態 | パンク/ニューウェーブ/他者とのコミュニケーション/インターネット |
ソロ | 神秘的・無国籍なサウンドと深い精神世界 | 民族音楽/コーラス/神話的/寓話的 |
核P-MODEL | P-MODEL後期の再構築。攻撃的なテクノ路線 | サイバー/再構築/ディストピア |
また、アニメ「ベルセルク」や今敏監督のアニメ映画「パプリカ」などの劇中歌や楽曲を担当することもあり、さらにはNHK「おかあさんといっしょ」では「地球ネコ」を楽曲提供されており、実は耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
経歴からも分かるように、さまざまな音楽性と世界観を持ち合わせており、
今も作品を発表し続けています。
聴く人によって惹かれるポイントが違うことも、長く愛されている理由のひとつです。
サブスクで配信されていない理由
平沢進の楽曲の多くがサブスクリプションで配信されていないのは、
過去の著作権契約に疑問を抱いたことをきっかけに、著作権管理団体や大手レーベルとの関係を見直し、
現在は自身のレーベル「TESLAKITE」を通じて、直接リスナーに音楽を届けるスタイルを選んでいるためです。
こうした背景もあり、CDを購入することは単なる「音源の入手」ではなく、
アーティストの思想や表現に共鳴し、応援する行為として大きな意味を持っています。
また、平沢進のアルバムにはアートワークやブックレットなど、
ビジュアル面からも世界観を深く体験できる工夫が施されており、
デジタル配信では味わえない没入感を得られるのも魅力のひとつです。
初心者向け!超おすすめアルバム3選!
まずは手っ取り早く世界観を味わいたい方におすすめのアルバム3選!
ソロ活動前期の世界観をイッキ聞き!「Archetype 1989-1995 Polydor years of Hirasawa」
ソロ活動初期に発表されたアルバムから選出したベストアルバム。
ソロ活動初期の名曲 + 未発表曲が含まれた2枚組大ボリュームの入門アルバムとなっています。

P-MODEL × ソロ作品のハイブリッド!「SOLAR RAY」
ソロ作品で発表された作品をP-MODEL風にセルフリメイクした楽曲が収録されたアルバム。
原曲とは打って変わってサイバー感のあるノリの良いサウンドに進化を遂げた名曲は必見です。
平沢進公式サイトで無料Sampleが視聴可能です!
フジロックの衝撃をもう一度!「RUBEDO/ALBEDO」
2019年と2021年に平沢進+会人(EJIN)として出演したFUJI ROCK FESTIVALのセットリストからスタジオアレンジされた楽曲が収録。
P-MODEL + ソロ作品が含まれた、これぞ最新の平沢進ベストアルバムといっても過言ではありません。(デジタル配信のみ)
中級者向け!おすすめ曲・アルバム!
もう少し踏み込んで知りたいという方に、活動別・アルバム別におすすめをご紹介!
P-MODEL・核P-MODEL
美術館であった人だろ
まずはデビューアルバムから。今の平沢進のイメージとは打って変わってパンクな曲調で驚いた人もいるのではないでしょうか。一見、ただの放火予告の曲のように聞こえますが、後年のテーマとなってくる「他者とのコミュニケーション」について訴えた曲となります。収録アルバム「IN A MODEL ROOM」と2ndアルバム「LANDSALE」は本楽曲のようにキャッチーでテクノポップな作風となっています。

いまわし電話
3rdアルバム「Potpourri」に収録。
過熱するテクノポップブームに対する危機感から「脱・テクノ宣言」を行い、2ndアルバムまでの雰囲気は残しつつ、よりロックなサウンドに。
全体的に暗い印象のアルバムですが、本楽曲は「美術館であった人だろ」を彷彿とさせる攻撃的なサウンドと自暴自棄な歌詞が特徴。間奏の狂気のキーボードソロは圧巻です。
原曲は上記、「P-Trick Plan」というベストアルバムに収録されていますが、2019年に行われたライブ「回=回」にて演奏されたバージョンも必見です。
フ・ル・ヘッ・ヘッ・ヘッ
活動中期に発表された「ANOTHER GAME」に収録。
4枚目のアルバム「Perspective」以降、実験的なサウンドが増え、歌詞もどんどん抽象的に。もはや歌詞とは言えないこの曲ですが、核P-MODELのライブにてテクノアレンジされており、近年では高確率で演奏される人気曲のひとつです。

2D OR NOT 2D
1991年の再結成時(解凍)に発表されたアルバム「P-MODEL」に収録。コンピュータを意識したサイバー感全開のテクノポップサウンドとなっています。
同アルバムに収録されている「WIRE SELF」や奇妙な曲構成の「LAB=01」なども人気の高い楽曲となっております。
また、最終曲「PSYCHOID」の終了後に、ファンには堪らないシークレットトラックが・・・

Big Btother
核P-MODELとしての1stアルバム「ビストロン」に収録。ジョージ・オーウェルの小説「1984年」をコンセプトとした、ディストピアな作風が特徴です。
攻撃的なイントロから始まり、現在の社会を暗喩したかのような批判的な表現が含まれます。
近年のライブでも演奏される人気の高い楽曲の一つです。
平沢進公式サイトでは「Big Brother」のみ無料公開されています。
Timelineの東
核P-MODEL 2ndアルバム「гипноза」(ギプノーザ)に収録。
前作「ビストロン」のディストピア要素は押さえられ、小気味良いイントロのシンセサイザーから始まり、美しいメロディと歌詞が印象的です。平沢進は度々「過去は西、未来は東」という表現をすることがありますが、この曲はまさに「東」= 人類が前向きに歩みだしていくような情景が思い描かれる希望感のある楽曲です。同アルバムに収録されている「それ行け!Halycon」では初期メンバーのキーボディストである田中靖美氏が30年ぶりに共演するなど、かつてのP-MODELを想起させるサウンドや世界観が人気のアルバムです。
遮眼大師
核P-MODEL 3rdアルバム「回=回」に収録。
攻撃的なサウンドとお経のようなコーラスが交わる圧巻の一曲です。従来の平沢風テクノサウンドを踏襲しつつ、本作からギターサウンドも前面に押し出されるようになります。
ちなみに当の本人はギター嫌いとのことですが、その腕は確かなもので、所有しているギターはどれもクセのあるものばかりとなっています。


ソロ活動
ソーラレイ
ソロデビューアルバム「時空の水」に収録。不思議なメロディと言い伝えのような歌詞が印象的な楽曲です。本アルバムは全体的にどこか異国を思わせる、土着的な雰囲気となっており、1曲目「ハルディン・ホテル」で出発し、様々な地で様々な人間模様を感じ、最後は「金星」で美しい旅の終わりと人間の不完全さを感じる・・・そんなアルバムとなっています。

世界タービン
「サイエンスの幽霊」に収録。
原始的な印象の歌詞とは裏腹に、カオスなサウンド、高熱の時に見る夢のようなPVが印象的です。
3rdアルバムまでは『科学と祈りのはざま』がテーマとなっており、ウェスタン風な「カウボーイとインディアン」、マッドサイエンティストのテーマソングのような「夢みる機械」など、原始的な世界観と化学が交じり合う超感覚のアルバムとなっています。
ヴァーチュアルラビット
アルバム「Virtual Rabbit」に収録。
前作までの雰囲気は踏襲しつつ、よりストリングスサウンドが前面に押し出され、後年のサウンドの礎となっているアルバムです。本楽曲は牧歌なサウンドに対し科学的が消し去った世界を表現したソロ初期の世界観を代表するような楽曲となっており、後年でもライブでアレンジして演奏されるほどの人気曲となっています。
また、歌詞カードに小説が書かれており、物語の順番に通りに曲を組み替えて楽しめるなど、アナログならではの工夫が凝らされています。
オーロラ
アルバム「AURORA」に収録。
情景が思い浮かぶようなサウンドと美しいメロディ、どこか勇気強いメッセージが込められている歌詞が特徴の楽曲です。
後年でも複数回セルフアレンジ・ライブ演奏されており、バージョンごとに違った美しさがある人気曲の一つです。

庭師KING
『全き人格の回復』がテーマとなっているアルバム「救済の技法」に収録。
「働く人=庭師かバスの運転手」という平沢進のイメージを元に作成されており、平沢風労働賛歌とも捉えられる楽曲です。壮大なサウンドと数え歌的に展開されるこの世の理と働く人への賛歌を感じられる楽曲です。
本アルバムには、『新世紀エヴァンゲリオン』の惣流・アスカ・ラングレー役の宮村優子さんに提供した楽曲「MOTHER」のセルフアレンジも収録されており、庭師KINGと同様に現在でも人気の楽曲の一つです。
賢者のプロペラ
アルバム「賢者のプロペラ」に収録。
SNSでは過去に頭痛に効く楽曲してバズったことも。1994年のタイ訪問時(通称:タイショック)から受け継がれてきたエスニックなサウンドの集大成ともいえるアルバムのうちの一つです。
今敏監督のアニメ映画「千年女優」エンディングテーマ「ロタティオン(LOTUS-2)」も収録されています。
パレード
「白虎野」に収録。
今敏監督のアニメ映画「パプリカ」挿入曲。まさに狂気のパレードを具現化したようなサウンド、歌詞が特徴です。一度映画を見たことがある人ならこの曲を聞いただけで映像が思い浮かぶはず。「パプリカ」の主題歌「白虎野の娘」と歌詞が異なる別バージョン「白虎野」も収録されています。
平沢進公式サイトでは「白虎野の娘」が無料公開されています。
鉄切り歌(鉄山を登る男)
「ホログラムを登る男」に収録。
労働する人類の「努力」について平沢風に表現した楽曲。「肉の腕とカロリーで だんだん切れ だんだん切れ 明日は華よと」と歌う一方で「思い出す力で だんだん切れ だんだん切れ キミは華よと」と様々な思いで働く人類に向けた人間賛歌ともとれる楽曲です。他にも現在のライブでも演奏される「アディオス」「回路OFF回路ON」など人気曲が多く収録されているアルバムです。
Sign
ベルセルク サウンドトラック集である「Ash Crow」に収録。
本アルバムは漫画家 三浦建太郎氏の作品「ベルセルク」映像化作品のサウンドトラックから選出された楽曲が収録されており、どれも名曲ばかりなのですが、その中でも本楽曲はインパクト抜群です。
軍歌のようなサウンドと異国の言語で勇ましく歌われていますが、歌詞はなんと架空の言語。ベルセルクの世界観に対する平沢進の圧巻の表現能力が感じられるアルバムです。
BEACON
アルバム「BEACON」に収録。一見清々しい雰囲気ですが、どこか宗教的・オペラ的な不気味さが共存している楽曲です。同アルバムに収録されている「TIMELINEの終わり」も人気曲の一つで、平沢進が考える世界を気付かせるような神々しい雰囲気が特徴です。平沢進が様々な活動や思考を経て行きついた世界を感じられるアルバムとなっています。
まとめ
「ステルスメジャー」を自称し、様々な世界観を創出し続けている平沢進。
テクノロジーと人間性、無機質と情熱、冷静さとユーモア。
相反する要素を自在に行き来しながら生み出される彼の音楽は、
時代やトレンドを超えて、多くの人の心を震わせています。
少しでも興味を持った方は、その深淵な世界にぜひ一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。